vol.3 布作家 さとうゆきさん

vol.3 布作家 さとうゆきさん
 
たくさんの「こと」や「もの」があふれる今、作り手の想いと使い手の心がつながる奇跡。瀬戸内の小さな町で暮らし、ここにある風景、文化、素材と向き合い、ものづくりにこだわりと情熱を注ぐ作り手の方々をご紹介します。

彼らの美意識やものづくりの喜び、遊び心などが詰まった言葉を大切に集めてそれぞれのストーリーを発信していきます。

3回は、布作家 さとうゆきさん。優しい風合いのバッグやエプロンはどのようにして生まれるのでしょうか。今回は、ゆきさんの自宅兼工房を訪ねました。
               

         
                 
        

                
―布作家になるきっかけは?
高校が美術の学校で、彫刻を専攻していました。そのまま彫刻で大学に行って、彫刻家を目指したけど、卒業してすぐに結婚したため、その夢は叶わずで。でも何かを作りたいという気持ちがずっとあって。そんなとき、子どもが生まれたけど着せたい服がないと感じて、ズボンくらいだったら縫えるかなと作って、その後、布に対しての興味が出てきたの。
      
布との出会いは?
もともと布は好きで、布を買うことはあったんですが、自分にはそれを使う術がなかった。布を暮らしの中に採り入れるのはすごく難しかったけど、初めての海外旅行でメキシコに行ったとき、バスに乗っていたら、インディヘナの人が市場で買った野菜や、 ニワトリをショールでくるんで背負っているのを見て、「そうか布は何でも包んでいいんだ」って思って。
一番びっくりしたのはね、ショールから足がひょこっと出てて。なんと、子どもを包んでたのよ。そこでリアルに布を使っている人を見て、「そっか綺麗で飾っておきたくなるような布でも、生活の道具として使っていいんだ。」と知りました。

メキシコでの布との出会いもそうだし、その後ラオスに行ったけど、ラオスに行くとお家の下で機織りをしている女の人がいて、家族のために織っている光景を見たの。そこでも布はもっと身近なもので、日常に普通にあるものなんだっていう経験があって、自分の中でぐっと布との距離が近くなりましたね。           
       
                       
           
                  

               
―彫刻家になる夢はずっとありましたか?
布を触っているうちに、彫刻家になりたいというもやもやした気持ちがなくなったというか、自分がものをつくる時間をどうとらえていたかっていう事に気が付いたの。

私はもともと具象彫刻を作っていて、毎日モデルさんが来てヌードモデルを作っていたの。でも粘土で等身大のモデルを作るときに、200250kgくらい粘土がいるのね。それを作るための粘土を練る作業がすごく好きだった。なぜなら同じリズムで体を動かしてたら頭がよく回るというか、よく考えられる。自分のこととか考えたり、そういう時間が好きだった。

結局、できた作品を世の中に出して、何かを問おうとしていたわけではなくて、自分と向かい合う時間が欲しかったんだなって気が付いたときに、布にミシンをかける時間が、それにすごく感覚が似ていた。 だから、布にステッチをかけることで私は粘土練りと同じ時間をもう一回取り戻したんじゃないかな。作家になりたいっていう気持ちからちょっとずつ離れて、すごく楽になりましたね。

やり始めた時は、お金をいただく以上、常に自分の気持ちがポジティブな時に作ったものじゃないといけないと思っていたんだよね。でも、そんな毎日ご機嫌なわけじゃないから、そんなこと言っていたら作れないじゃない?(笑)

でもあるとき気が付いたの。すごく気分が落ちている時でも、ミシンを踏んでしまえばリセットできるってことに。そしたら、より日常に取り入れやすくなっていった。ミシンをかけることは自分の中ですごい大事な行為だなって。       


―ゆきさんにとってメキシコとは?

こだわりの少ない生活の中で、唯一のこだわりは、メキシコを身近に感じる機会や空間を作ることなのよ。

メキシコで手に入れた工芸品(織物・器・木彫オブジェetc)を身の回りに置いて愛でたり、メキシコ料理を作ったり、エプロンのコスプレもね。体内メキシコ濃度を上げて、妄想・空想旅を楽しむことです。ものつくりの始まりの地をいつも忘れないように感じていたい。

エプロンのコスプレは逞しく仕事をするメキシコのお母さん達のように頑張る気合い入れです。
    

                 
       
                
             
             
       
―アイデアはどんなときに浮かびますか?
最初、作りたい形、ぐるぐるバッグは何の関係もなく作りたいから始まった形。でもその頃って子どもが小さいからおむつや着替えをもって出かける。そしたら、両手が空いて荷物がたくさん入る形のバッグが欲しくて。

次に子どもが小学生に上がって、PTAにならないといけなくて。ちっちゃい書類とか成績表とかがスッと入ってしかも自分の気に入ったものが欲しくなって。 またそうこうしてたら、周りの人たちから仕事が忙しくって、いっぱい荷物が入るけど、 移動も多いから肩が楽なバッグが欲しいと言われて。

子どもが大きくなって手が離れた時には、自分だけの荷物を持ってパッと出かけたいと思うようになって。そしたら、ちょっとそこまで、だけどもうちょっと先まで行きたい、そんなサイズにしようってなるし。 その時々に必要な形のアイテムですね。新作がバンバン出せないのはそのせいです。(笑)

やっぱり年齢が上がっていくと、転びそうになったりするからリュックかなあとか、 後は何かの展覧会をしたときに、親が年を取ってくると車椅子だったり、病院に付き添うことが多くなるから、車椅子に引っ掛けれるバッグがあったらいいなあとか。 そういう形での新作になっていくと思う。自分が必要にならないと新作はできないですね。             
          
    
     
         
           
―布選びについて教えてください。
大事なのは手触り。質感ってすごく私の中では大事で、それはやっぱりもともと彫刻をしていたからだなと感じる部分。やっぱり触って確かめる、例えば本当に同じ色が出ている布でも、どっちを選ぶかと言ったら、手で触ったり見た時の質感だったり素材感で選びます。

色の選び方は?
色は、その時に自分に響くもの。今これかな、って感じ。もともと暖色が好きだったの。赤やオレンジとか。大学生くらいまではね。それは朝か夜か、太陽か月かで言うと、太陽の光に対しての憧れがすごく強かった。でも大学生になって月の光が心地良いなって感じたときに好みが少しずつ変わってきて、寒色も受 け入れれるようになってきた。でもそれでもすごく苦手だったのが緑。 カエルみたい、ってずっと思ってた。(笑)青から緑ってすごく苦手とする色だったんだけど、色々なことを経験して大人になった今は大好きになって、最近はよく使うようになったよね。


リネンのお手入れはどうすればいいですか?
ネットに入れて洗濯機に回して、パンパンして干すだけ。 バッグは手洗いでもいいし、おしゃれ着洗いでも。やっぱり日常だから、すごく気を遣うようなものではないと思ってる。ハレの日かケの日かっていうと、ケ。 リネンのエプロンにきっちりとアイロンをかける方もいると思うんやけど、それはそれでいいと思う。それが気持ちよく使う方法であれば。ただ私のはそれを必要とはしていないので、特にそんな気合入れてお手入れしてくださいということは全くないです。     
               
          
         
         
         

―新作のフルエプロンについて聞かせてください。
暮らしの中でエプロンを身に付ける時間が長くなった頃、「朝一番に身に付けて、よしッ!と気合を入れる」ようなエプロンが欲しくなったんだよね。
エプロンに求めるものは、丈夫で手触りが良く、気軽に洗濯ができること。どんな服にも合わせやすいプレーンな形だけど、身に付けた時にグッと気持ちが上がる工夫を忍ばせています。 エプロンの紐は正面ではなく、左側面で結んでね。そうすることで結び目が作業の邪魔にならず、また見た目もスッキリします。 ポケットの位置も物を入れても取り出しやすいように少し斜めにつけたり、小さなところにもこだわりを。

自宅が工房ということですが、リフレッシュの時間はどのようにとっていますか?
一時すごくお気に入りだったのが、夜ね、屋上で自作のラグマットを広げて、雲がビュンビュン流れていくのを見ること。寝っ転がって大の字になって、空を見上げるのが好き。夏の夜だと、結構床がずっとあったかいんだよね。それがだんだん寒くなってきてね。
ちょうどその時、メキシコを感じたいなって思っていて、夜、周囲の灯りも消えて、マットを広げて、メキシコで買ってきたカップにお茶を入れて、YouTube でメキシコの音楽をかけて・・・。メキシコとつながってるんだーってね。(笑)そういうのが好き。だから、どこかに出かけたり、誰かにあったりとかじゃなく一人の時間を楽しむのが、私のリフレッシュの方法です。
こだわりの詰まったすごく丁寧な暮らしでは全くなくて、ごくごく普通の暮らしを「ゆるり」と続けている。それだけで幸せを感じられるかな。


工房はさすが「ものづくり夫婦」というだけあって、生活を便利にする小道具が手作りされていて、とてもお二人らしい居心地のいい空間でした。ゆきさんとお話ししていると、作品の使い心地と同じで、とても自然体で心地よく、リラックスできる気がします。

当オンラインショップでは、さとうゆきさんの作品のお取り扱いがスタートします。新生活や、母の日の贈り物に。暮らしに寄り添う布ものたちをぜひご覧くださいね。            
            

                  

                   
<さとうゆき プロフィール>

1970  高松市生まれ
1989  高松工芸高校美術科卒業
1993  多摩美術大学美術学部彫刻科卒業

帰郷後結婚。「子どもに着せたい服がないなぁ」と思ったことで、布を触りはじめる。暮らしに必要になった布ものを作りつつ、彫刻家の夫の手伝い・子ども造形教室「アトリエNiño 」の先生もしている。