vol.5 スギウラ工房
杉浦綾さん
vol.5 スギウラ工房 杉浦綾さん
たくさんの「こと」や「もの」があふれる今、作り手の想いと使い手の心がつながる奇跡。瀬戸内の小さな町で暮らし、ここにある風景、文化、素材と向き合い、ものづくりにこだわりと情熱を注ぐ作り手の方々をご紹介します。
彼らの美意識やものづくりの喜び、遊び心などが詰まった言葉を大切に集めてそれぞれのストーリーを発信していきます。
第5回は、砥部焼のスギウラ工房 杉浦綾さん。伝統工芸品の砥部焼に斬新で愛らしい作家の手仕事がプラスされた、暮らしにしっくりと馴染む器を作られる陶芸家です。 杉浦さんとの出会い、個性あふれる作り手が暮らす街、愛媛県大洲の方々とのご縁でつながり、オリジナルで可愛いカモメの箸置きを作っていただいたのがはじまりです。2019年に最初の展示会を開催し、今回は2度目の展示会。穏やかだけれど、パワフルな魅力あふれる杉浦綾さんにお話を伺いました。
「伝統産業って、モノを作って食べる。絵を描くよりも、芸術よりも、ずっとリアル!」
―砥部焼きとの出会いを教えてください。
15歳まで新潟で暮らして、幼い頃は砥部焼きのことを全然知らなかったし、両親が買っていて見てはいたけどそんなに身近ではなかったです。
東京の美大を出た後、ケーブルテレビの番組制作をしていて、夫は一緒の美大でしたが、人形を作っていて。当時は焼き物じゃなくて紙粘土にアクリルで色を付けるみたいなことをしていました。
それを見ていたうちの両親が「今度砥部という焼き物の町に引っ越すのだけど、君たちも来ないか?窯をもったらいいよ、すごく窯の数は多いし産地だから」って言われて、「へえ〜!」と思って。
伝統産業って、なんて言ったらいいんだろう。モノを作って食べる、って手段じゃない? 絵を描くよりも、芸術よりも、ずっとリアル!そういう世界があるんだ!と思って。それで若かったし何も考えず会社を辞めて、夫と二人で愛媛に来たの。
―陶芸を始めたのはそれからですか?
そうそう。一応愛知県の瀬戸市っていう所に焼き物の学校があって、そこで勉強をして、すぐ窯を持った。借金まみれでしたよ。最初は・・・。窯を持つってすごくお金がかかるから。
―全く違う世界へ飛び込んだのですね!
そうね。でも、ずっと器も料理も好きだから、大学生なのに5枚ぞろいとかで器を持っていたりして。それで人をたくさん招いてご飯を作ってました。 だから器自体はすごく好きで、母も好きだったから作家ものの器が家にめちゃめちゃあったのよね。そういう意味で器にはすごく近かったのかな。 まさか自分が作るとは思わなかったけどね。
「陶芸も絵付けもうまい下手じゃなくて継続。誰でもやればできる。20年続ければできるもの。」
―砥部焼の魅力は何だと思いますか?
真っ白な地に呉須(ゴス)の青で絵付けしてあるのはとってもかっこいいなと思いました。 厚みのある感じとか使い勝手の良さとか。すごく丈夫だし。
―白地に青の線が心地よいですよね、描くイラストはどんな時に思い浮かびますか?
伝統的な古典柄もありますし、オリジナルのものもあります。 崩し卍だったり、豆絞り、麻の葉のような古典柄があって、それらをどうやって描くかは自分流。ベースにあるパターンは昔からの古典柄。 そこに、自分なりのひょうたんのイラストに古典柄を採り入れたりね。
―イラストはもともと描かれていたのですか?
全くです。私は大学の頃自分で絵を描くんじゃなくて、デザインマネージメントっていうデザインをする人と、その技術を繋げるようなことをやっていて。 だから絵は描ける人にお願いしてました。ディレクター職に近い感じのことをしていました。
自分でやることがピンと来なくて。 ただ、陶芸も絵付けもうまい下手じゃなくて持続なんですよ。 継続。誰でもやればできるわけ。20年続ければできるの。
だから陶芸の学校時代からずーっと古典模様を練習し続けました。ずっと線ばっかり描いていました。
こういうのを麻の葉模様っていうんだけど、これを何も見ないで描けるようになるまで、 こんな筆を使って絵付けをするんだけど、
筆先が長いからとにかく筆が走る練習をやってた。自分が描きたいものを描くっていうよりは、自由に筆先を扱えるようにとにかくやってたかな。
―お皿やコップ、そのカタチはどのようにして生まれますか。
料理をしながらとか、盛りつけをしながら、こんな形があったらいいのになとか。 それが出てこなくなったらやめてもいいかな。。(笑)
―1番最初の定番はどの子ですか?
湯呑みかな。高台(裏側)が四角いタイプのね。 その後に張り合わせの形を出して、足が四つついている子ができて。 1つの器に絵をたくさん描きたくて。でも絵を変えるとっかかりがなくて、それを作りたくて、貼り合わせはそれを貼ったところで変えられるなと思って。素焼きをするとくっつけた後が見えるので、そこから絵を描いています。
*貼り合わせ (たたら作り)
粘土を薄くスライスしてパーツを作り、組んだり貼り合わせたりして作る手法です。型に押し当てて成型することでデザイン性に富んだ形を作ることができます。
「持って帰ったら一刻も早く洗って、その日の晩御飯に使ってほしい。 」
―ちなみに普段どんな料理を作られますか?
本当にね、あるもので作るのが得意なんです。 主婦の人は皆さんそうなのかもしれないけど、スーパーへ行って安かったものとかでね。コレ作ろうと思って買い物に行くってことはあんまりないけど、旬のものとか、、、
―お酒は飲まれますか?
お酒を飲むのために料理をしている!(笑) お酒飲むためにご飯を作るから、どんなに疲れて帰ってきても作るね。 お酒は絶対飲みたいから!(笑)
日本酒もすごく好きだし、ビールもワインも飲みますね。 最近は愛媛のお酒ばかり。西条にある酒蔵のお酒を飲んでいます。まあ全部美味しい!
―作ることが煮詰まってしまうことはありますか?
もちろん。そういうときは釣りにいきます。
船を出してもらって、しまなみへ鯛を釣りに行くんです。
―その目的は食べるため?
そう、飲むため。(笑)釣れなきゃ今夜ないよ、なんてみんなで言いながらね。 海に出てぼんやりしています。
普段、追われていないことがないので。
やってない、作らないってことはないんだけど、しなくていいなら、しないでいたい。 やらなくちゃとか、焦りみたいなのはなくて、締め切りはあるからそれに合わせてはやるんですけど。作り手として焦燥感で作るみたいなのはないかな。
―作ることと休むことのバランスが上手なんですね。
そうなのかも。だからこそ20年もやっていられるんだろうね。 びっくりするぐらいいい加減なんですよ、私。(笑)それもよい方に作用しているんじゃないかな!
―家と工房は同じ場所ですか?
ううん、通っているの。車で 30 分かけて砥部に行ってます。
愛媛で通勤 30 分の人ってすごく珍しいんだけど。私はそれが気に入っていて、車を運転するのも嫌いじゃないし。窯元って大体は家に工房があるのがスタイルだからみんな四六時中、仕事をしているわけ。それが私の場合は物理的にできないでしょ。だからすごくよかった。 家に帰ったらもう仕事はしない、触らない。あとは飲むだけ。(笑)
―今後作りたいものはありますか?
今回新作でもってきた、プレートの真ん中のサイズを完成させたいです!今のところ筒状のものが気に入っているので、この 1 年はやりたいと思っています。 四角いお皿にフチがあるのもいいよね。
あと、柄展開をもう少し考えたいですね。
―今回の展示会のタイトル「ストライプ」に込められた想いを教えてください。
すごくいいタイトルだと思わない??展示会のお話を頂いたときに、ふっとひらめいたんです。 ちょうど夏前のこの季節だし、ストライプを描こうと思っていたところだったの。 カタカナより英語がいいなと思って。
―最後に杉浦さんの器を手にしていただく方へのメッセージ をお願いします。
持って帰ったら一刻も早く洗って、その日の晩御飯に使ってください。 なんだっけ、トイストーリーで子どもが使わなくなったおもちゃをベッドの下に置いたままにしてるじゃない。ああはなりたくない。できるだけ最前線で使ってほしいんです。
器はできれば、その人のものに早くなってほしいなって思います。お家に持って帰ってその人のご飯を乗せてほしい。 だからその人のお家に行ったらその人のもの。その人の食器棚の中の一部に早くなってなじんでほしいですね。
お酒好き、お料理好きな杉浦さんが作る砥部焼は気取らず日々の暮らしに寄り添ってくれます。
一つ一つ手作りの陶器に描かれた愛らしい絵付けは、それぞれ表情が異なり、この器には次はどんなお料理を乗せようか…と妄想が膨らみます。
ぜひお気に入りの器を見つけてくださいね。